急に 泣きたくなった。

□■ 雨ひとり ■□


 独りになると、あんまり楽しいことって考えられないもの。
 君のいなくなったこの部屋は、ただ広くて広くて。
 その中で独り、だらしなく椅子に腰掛けた私が、やけに小さく思えた。

「あー・・・・・・」
 強大な静けさに圧倒されそう。
 さっきまでの君がどれだけ偉大な存在だったか痛感してみたり。

 窓にはりついた雨粒が、新たに落ちてきた雨粒に押されて流れ落ちた。
 立ち上がって窓を開ける。
 細かい飛沫と少し湿った空気が入り込んで、ザァという雨音が耳に響いた。

 雨は好きだ。独りでいる時は、特に。
 独りは嫌いだ。そんな時の、皮肉なまでに晴れ渡った空はもっと嫌い。


 でもね。


「ノート!ノート忘れた!」

 突然開いたドアから、ずいぶん前に出て行ったはずの君が、恥ずかしそうに笑いながら飛び込んできた。
 ふと目をやると、君の忘れ物は机の上に少し丸まって転がっている。
「あるよ。ここ」
 笑って、丸まったままそれを君に向けて差し出した。
「あ、丸めないでよ。癖付いちゃう」
「もとからじゃん」
「嘘だー」
 こんなありふれた会話が、とっても輝かしく思えて。
 私は未だに雨脚を強める外に目をやると、静かに窓を閉めた。

「ねー、一緒に帰ろう」
 丸めたノートをそのまま鞄に突っ込んで、君が明るく言った。
「傘持ってきてなかったんだ。入れてよ」
 机に立て掛けて置いてあった私のビニル傘を手にとって外に飛び出した。
 そんな勝手な君に、何度助けられていることか。
「あ、待って」
 私も慌てて尾を引く雨のした、君のかざしたビニル傘にもぐりこんだ。


 ザァー。
 雨は止む様子を一向に見せない。

「ありがとう」
 そんな中呟かれた言葉は、水溜りを踏み鳴らす音とビニル傘の上で弾ける雨音に掻き消されて、耳に届くことはなかった。

 

【 完 】


  【あとがき】
 こんにちは。夢藤ですv
 今日は大好きな雨ネタ。雨は好きです。まあ、濡れるのはあまり好きじゃないんで、正確には家にいるときに「入って来れねーだろ雨め、ざまーミロ」とかほくそ笑むのが好きです(ただの馬鹿)。
 この話の『私』は、自分を置いていってしまう全てのものに嫉妬にも似た感情を抱いていたんじゃないでしょうか?(自分で書いときながら疑問符かよ)
 8月は勉強三昧な気のする夢藤。今日はこの辺りで退散〜。。
2005/07/31