空に咲いた花が、とても綺麗で、ちょっと寂しかった。 □■そんな夏のある夜のこと■□ 「場所、変えようよ。ここからじゃ全部見えないし」 君が不満そうな声をあげた。 とどまることを知らないかのように大きな音をあげて空へと上っていく花。 音に負けないくらい華やかに開いたその花の、三分の一くらいが、少し離れた場所に立っていた木のシルエットに隠されていた。 「そうだね、どこら辺ならよく見えるかな」 私はそう答えて、辺りを見回す。 暗い、でも華やかな夜の中で、浴衣を着たカップルや、ちびっこや、怖そうな兄ちゃんが騒いでいる。 どんなに見た目は違っても、やってることは皆同じだなー、なんて、埒のないことを考えてみたり。 座っていた石段から立ち上がると、はしゃぐ君の後ろをゆっくりと付いて歩いた。 その間にも、絶え間なく空は華やぐ。 「あれさ、誰が考えたんだろうね?」 前を歩いていた君が、振り返ることなく話しかけてくる。 当然、人ごみの中ではそんな声聞き取れるはずがない。 君を見失わないようにするのに一生懸命なんだから。 「もっかい」 「しかたないなー」 いやいや仕方ないじゃなくてね。 自分中心に回ってることが多いんだけど。でも、嫌いじゃない。君だから。 「花火ってさ、誰が考えついたんだろう、ってこと」 火が、いろんな色の光を放って空で大爆発。 それを、あんなに綺麗に作り上げたのって、確かに凄いと思う。 「さあ?いつ出来たのかも知らないし」 「だよね」 君は小さく頷くと、器用に人を避けながら空を見上げて歩く。 私にはそんな芸当できないから、ゆっくりとした歩調で進んでいく君の背中を見ながら歩いた。 「作ってて寂しくならないかな」 目は空に向けたまま、おもむろに君が口を開いた。 少し会場から遠ざかったため、人の数も減り、君の声はすんなりと私の耳に届いた。 「・・・・・・何が」 空が瞬き初めてもうけっこうな時間がたつ。 客の少なくなったお面屋のおじさんが、口を半開きにして空を見上げていた。 「花火だよ。作ってて、寂しくないんかね、アレ」 ここからなら花火がよく見える。 君も私も言葉こそ交わさなかったが、互いにそれを確認してその場に腰を据えた。 「なんで。普通は楽しいんじゃないの?」 花火作りが寂しいなんて、考えも及ばないよ。 「だってさー・・・」 君はもごもごと口の中で呟くように喋る。 目は已然として空に向けられたまま。 私も落ち着いたおかげでようやく空に目を移すことができた。 上って。 開いて。 ゆっくりと。 落ちていき。 地面につくこともなく消えていく。 「一瞬だけだよ。綺麗なの」 君が呟いた。 私は君に目を移したりしなかった。 花が咲いて、散っていくから。 「・・・・・・そうだね」 だから、声だけは君へ。 「何千発も打ち上げてるんだよ。この数十分に」 ああ、チラシにそんなことも書いてあったね。 「もったいないなぁ」 君の声が、私へ。 一瞬だけ。今も。 「・・・・・・そうかな」 「そうだよ」 「あんま、思わないけどなぁ」 「・・・・・・なんで」 「だって、その一瞬がずーっと私たちの思い出になるわけだし」 だから、花火は幸せだ。 だから、君も私も、幸せだ。 「だからね、花火、見逃しちゃ駄目なんだよ」 「・・・・・・うん」 きっと君も私とおんなじ気持ち。 だからそれより後は、花が全部咲き散るまで一言も会話しなかった。 「今度はさぁ」 そんな夜の帰り道。 駅に向かってごった返す人たちに流されないように、駅から外れた道を歩きながら、君が言った。 「打ち上げ花火じゃなくて、花火セット買ってどっか広いトコで花火やろう」 「あ、いいねぇ」 はしゃぐ君の姿が容易に想像できる。 それがなんとも言えず嬉しくて。 「また、来年も行こうね」 そう呟いたら、君はいっそう笑みを深めて頷くんだ。 来年と、再来年とまたその次と。 ずっと続く時間に、私たちはどこまでついていけるんだろうね。 わずかに香る、花火の残り香が、生ぬるい風と一緒に私の鼻をくすぐった。 そんな、夏のある夜のこと。 【完】 * あ と が き * こんにちは、小説ではお久しぶりです夢藤です。 なんだか、夏休みに入ってからの方が更新頻度が落ちているような気が・・・気のせい? いやいや気のせいじゃないんだなーこれが。 なんてったって私の小説作成場所は学校だったんですから!!(どーん/威張るな) よって、小説を書く頻度ががくっと落ちたのですなこれが。 ・・・すみませんこれからはもうちょっと真面目になります。 でもまだ宿題が三分の一程度残ってるんだいチクショーめ!!(涙) 花火大会に行ったから花火ネタ。わかりやすすぎるこの人の脳内に『みそ』と名の付く物質はおそらく毛ほども存在しないのでしょう・・・; またも何も考えずに書いたので何も解説とかできません。ちなみに夢藤、彼氏なんていないので花火大会はもちろん友達と行きました(笑) この『君』と『私』の関係は敢えてわからないように書いているのですが、皆さんは勝手にご想像くださってけっこうです。身近な君に『君』を重ねて見てくださいv(ちなみに『君』は性別すらわかりませんね/これもわざとなんですけどね;) それでは長くなってしまったような気がするので今日はこの辺で; 感想は掲示板もしくはメールフォームとか拍手とかでお願いします☆ 2005/08/08 |