○● デイ・トゥー・デイ ●○
「でぶい・・・・・・」
回転椅子をがらがら鳴らして、突然君が呟いた。
私は驚いて、椅子ごと君を振り向く。
「え、ちょっと・・・・・・それは酷くないですか」
「んー・・・・・・」
私の声を聞いているのかいないのか。
とにかく君は眠そうに目を瞬かせながら、丸めたティッシュを近くのゴミ箱に投げ入れた。
「そうじゃなくて」
眠いと言ったのだ、と主張する君の声は酷く鼻声だった。
私は眉根を寄せて両腕を組む。
「風邪?」
「ちょっとね」
「インフルエンザとか、やめてよ」
ホントに。
「多分、違う」
君はそう言うと、鼻を擦った。
私は思わず溜息を吐く。
「鼻風邪は長引くって言うじゃん。早く治してよ」
ホントに。
「んー・・・・・・」
相変わらずな君の声に、再び溜息を。
「もっとピシッとシャキッとしなよ。『病は気から』でしょ」
「んー・・・・・・」
丸まった君の両肩を掴んでピン、と張らせる。
その中で、ダランと落ち込んだ君の頭にチョップを喰らわせてやった。
「いでっ」
図らずも急所に入ってしまったみたいで、君は小さく呻くと恨めしそうに顔を上げた。
ちょっと痛かったかな。
「ごめん」
素直に謝って、打ったところを2、3度撫でる。
「いいよ、もう」
君は口を尖らせつつもそう言うと、不自由な鼻を再び擦った。
しばらく、沈黙。
よくあることだから、別に気まずいとかは思わないけど。
私はお尻の下に両手を敷いて、ゆっくりと左右に回る。
椅子が少し軋んだ。
飛んでいく丸まったティッシュが視界の隅を横切っていく。
「・・・・・・早めに病院行って」
「うん、行く」
「薬もらって」
「うん、飲む」
「治して」
「うん」
無意識に唇の端が吊り上がるのが、わかった。
口を開く。
「うんうん言いすぎ」
ぐるーん。
椅子がけっこうな速さで一回り。
再び視界に君が戻ってきた時、君はにっこり笑いながら私の座る椅子を手で弄んでいた。
「びっくりしたじゃん」
「びっくりさせたんじゃん」
君の言葉に何か返そうと思ったけど、口を開くよりも前に、再び椅子が――今度はゆっくり――回った。
ぐるぐる回る視界の中に、君が写って往き、写って往く。
「注文多すぎ」
ぐるぐると私の椅子を回しながら、君が言った。
鼻声が少し、聞き取りにくかった。
「注文聞きすぎ」
ちょっと笑ってそう言ったら、君の笑い声が聞こえた。
そこで君はピタリと椅子を止める。
あれ。
君に背を向けた状態で止められたから、君の様子がわからないよ。
「意味わかんないや」
ぽつり。
後ろで聞こえた。
ゆるゆると、君に背を向けたまま私の乗る椅子が前進する。
50センチくらいですぐに止まったけど。
これ、物理の世界ではなんていうんだっけ。
わかんない。
「いいよ、別に意味なんてわかんなくて」
床を蹴ってぐるんと回ると、君に向き直った。
さっきよりも少し遠くなった君の顔が、じいっとこっちを見ている。
「私も意味わかんないもん」
「ですよね」
でも、そんな毎日が好き。
今だけ。
あと少しだけ。
「・・・・・・行こっか」
「へーい」
声を掛けると、君も間抜けに返しながら立ち上がった。
「帰ったら、手洗いうがいするんだよ」
「・・・・・・お母さんですか」
「それもいいね」
「いやだ」
うん。
やっぱり、これがいい。
【完】
こんにちは、夢藤です。
更新する度に小説が久しぶりだ・・・!!いやはや、申し訳ない;
今回はタイトルが浮かばなかったです・・・今でもあまり気に入ってません。。
回転椅子好きですvぐるぐる回るの好きですv
でもやりすぎると椅子が私の体重に耐えられなくなりそうだから気をつけよう(笑)
近頃、インフルエンザが大流行。昨日は私のクラス、10人の欠席者が出ましたよ(汗)
私はもともと頑丈だから大丈夫だと思いますが(寒がりだけど)、皆さんお気をつけくださいね;
それでは、また次回作にて。
こんなところまで読んでいただき、誠にありがとうございました☆
2006/01/21
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