□■ふわふわの国■□


「どうしようか」
 君が、つまらなそうに呟いた。
「・・・・・・どうしたい?」
 私も、つまらなそうに尋ねた。

 また忙しい日々がやってくる。
 なのに、どうして私は今ここにいるんだろう。

 何度目かの溜息――は、なんの意味も持たなくて。
 楽しそうな笑い声をあげて駆け回るちびっ子たちを、恨めしそうに眺めていた。


 こんな時、見ていたいのは青い空。
 いつも君がしているように目を細め、ベンチの背に頭を預けるようにして遠い空を見上げた。

 ゆっくりと流れていく、雲。
 ちょっと変わった形の雲が目に入って、視界から消えていく。

 少し、寂しい。



「あーぁ・・・・・・」


 呟きが、空に吸い込まれていく。
 一緒に、連れてって。


「あーぁ・・・・・・」


 隣で聞こえた声に、ベンチに預けたままの顔を横にずらした。
 すぐ近くにある君の、ベンチに預けられた横顔が、空を見上げながら目を閉じている。

 それはいつもの君とは少し、違う。


 私は小さく笑うと、同じように薄い青色を目に映して、そして目を閉じた。



 ちびっ子の笑い声。
 走り回る靴音。
 ゆるい風が吹きぬける音。

 閉じたままのまぶたを抜けて零れる優しい光。
 それは、頭の芯まで沁みこんで、じんわりと背骨が温かくなった。


 心地良い空間が広がって、それはやがてとろとろとした睡魔に変わる。


 それは、ふわふわの国。


「最後だし、ゆっくりしようよ」
 君の声が、私をすくいあげた。

 わずかに目を開けば、光の帯がどっと流れ込んでくる。
 君は、少し遠くを飛ぶ小さな蜂の姿を目で追いながら、柔らかく微笑んでいて。
「・・・・・・そうだね」
 私は答えると、広がる青に笑いかけた。



 今日はこんな日で。
 明日もきっと、こんな日なんだね。

 なんとなく、そう思った。


 そこはきっと、ふわふわの国。

【完】



  あとがき
 こんにちは、毎度のごとく、夢藤です。
 本当は私の学校、明日まで夏休みなのですが、明日は登校日なので、実質夏休みは今日で終わりです(涙)  夏休みの最後ぐらい、ゆっくりのんびり過ごしたいねぇ、とか思ってたらいつのまにかこんな作品ができあがってました・・・
 個人的に公園大好きです、ハイ。
 晴れた日にちびっ子たくさんの公園の片隅のベンチに腰掛けて読書とか、落ち着きます。
 いい年こいて公園かよ、とか思った方。一度騙されたと思って晴れた日の公園に行ってみてください。虜になるハズです・・・!!
 そんな夢藤の夏休み、今日で最後。寂しいなぁー・・・(苦笑)

2005/08/30