○● ハロウィンダンス ●○

「ハロウィンだね、今日」

 君が言った。

「そうだね」

 私が答えた。


 街を歩けばジャック・オー・ランタンがにやにやとしていて、魔女の帽子とかマントとか、蝋燭なんかが店先に並んでいる今日。

 私たちは教室のベランダで冷たい風に吹かれている。


「まあ、ハッピーハロウィンとか言うつもりはないんだけど」
「そうだね」

 君の言葉が本当にそのとおりだと思って、いつもの気のないような返事に加えて頷いてしまった。


 だから私たちは今、ここにいるわけだし。
 欄干にもたれるようにして、人気のないテニスコートを眺めた。



「あれって、なんでお菓子もらえるんだろ」
「日本のお菓子業者の策略でしょ、きっと」
「マジでか。まんまと踊らされてるんじゃん、ショック・・・」
「ははは」


 他愛のないやり取り。
 ハロウィンは日常を構成する材料のひとつなんだ。



「今日がハロウィンってことは・・・明日から十一月?」
「そうなるね」
「さむっ」
「今も寒いでしょ」
「響きが寒いじゃん、十一月って」
「まあねー・・・」

 意味もなく、テニスコートに転がる小さなボールの数を数えてみたり。



「今頃、アメリカは凄いコトになってるよ、きっと」

 君の言葉はやっぱり唐突で。
 見てみれば、君は濁った空を眺めているんだ。

「なに、凄いコトって」
「さあ、よくわかんないけど」
「なんじゃそりゃ」

 私が笑って、君も笑う。

 アメリカの騒動は、濁り曇の下、私たちには聞こえないけど。



「とりあえず、踊りましょうや」

 君の声が、やけに明るく聞こえた。


 君が、振り返る。

「お菓子、ちょーだい」

 差し出された掌を見て、溜め息。
「・・・・・・別にハロウィンはお菓子の行事じゃ、ないんだよ」
 言いながらポケットをまさぐり、取り出したのは眠気覚ましによく噛む、ガム。
「げっ、なんでソレ・・・・・・?」
 君が顔を引きつらせたのを見て、私は不敵に笑った。
「ウソ。こっちあげる」

 反対のポケットからオレンジ味のキャンディーを取り出して、差し出されたまんまの君の左手に握らせた。

 君が笑う。

「じゃあ、君にはこれをあげようではないか」

 なぜだか君は偉そうに、右ポケットからキャラメルの箱を取り出して、私の掌の上にコロンとひとつ、落とした。


「ありがとう」

 素直にそうお礼を言って包みを開けると、口に放り込んだ。



 甘い甘いキャラメルの味に、思わず小躍りしたくなった、今日はそんな10月31日。



【完】

 こんにちは、夢藤です。
 ハロウィンですね。まあ、私はあんまりハロウィンで浮かれる人間じゃないので、いまいち小説でも盛り上がらないですけど(実際盛り上がらなかった)。
 とりあえず、踊りましょう。踊り狂いましょう。
 流されておけばいいんです。楽しければいいんです。

 さて、明日から十一月。本当に寒いですね(涙)
 でも十一月ってなぜだか好きですよ。雰囲気とか。
 冬になったらなったでけっこういろいろ楽しみですv

 それでは、また次回作でお会いしましょう、夢藤でした。


   2005/10/31