○●約十分のお話●○ 「う゛ーん、眠い・・・」 くぐもった君の声が聞こえる。 突っ伏した机がギシリと音をたてた。 白いカーテンの隙間から差し込んだ暖かい光の筋が、君の髪を柔らかく染めている。 ゆっくりと上下し始めた君の肩から目を逸らし、私は近くの椅子に腰掛けた。 手に持っていた英語のノートを広げ、ぼんやりと眺めるけれど、穏やかな空気の流れに心は流されて、なんにも頭には入ってこなかった。 「ひーま・・・」 なわけはないんだけれども。 忙しすぎるはずなんだけれども。 溜息と共に吐き出した声は、緩やかな午後の空気にのまれて消えた。 何が変わるわけでもなく。 君は相変わらず机に突っ伏しているし、日差しも相変わらず柔らかい。 ただ、カチ、カチっていう壁時計の音だけが、やけに耳に強く響いた。 現在午後2時36分。 と、43秒・・・いやいや45、46、47・・・。 確実に流れていく時間だけが速足で。 だけど、君も私も。 この日差しとか、空気とか。 それらを前に焦ることなんて、出来ないんだ。 「あーあ・・・詐欺」 呟いた言葉も、わけのわからない言葉。 溜息を吐きながらノートを閉じた。 と、同時にビクンと揺れる君の肩。 「うおっ」 男らしく叫びながらがばっと顔を上げた。 「なに。どうしたの」 ちょっと驚きつつも声を掛けたけど、君は放心したかのように宙を見つめている。 「おーい・・・」 再び声を掛けて、君の顔の前に手をちらつかせると、君はようやくこっちを向いた。 それは、ゆっくりと。 「あ・・・寝てたんだった」 「夢見てたの?この短時間で」 「あー・・・覚えてない」 一段階トーンの低くなった君の声が、喉の奥でふにゃふにゃと何事かを呟く。 「今、何時」 目が霞むのか、君は目を細めて時計を見つめている。 私もその視線を辿って、口を開いた。 「・・・2時44分」 「げ、もう3時じゃん」 大きな欠伸を噛み殺し、君は目に浮いた涙をシャツの袖で擦った。 「ふいー・・・英語は終わらんな、こりゃ」 そう呟いて、君は開きっぱなしで放置してあった英語の教科書を手元に引き寄せる。 「アケミはランナー・・・ランナーのアケミ・・・?」 べたっと机にへばり付きながら、立てるようにして置いた教科書を目で追い、意味のわからない訳をしている君を横目で見て、喉の奥で笑う。 ぶつぶつと訳を呟く君の声、カチカチと規則的な時計の音。 とても心地良い。 私は微笑み、ノートを開く。 ちらと見た壁時計が示す。 現在午後2時49分。
【完】 はい、またもや久々作品ですが、頑張りました夢藤です。 ちょっと疲れた内容な作品です(汗) 最近はなんだか疲れます・・・時間の回りがとても早く感じられるようになりました。 昔はどんなに疲れてもしっかり眠れば次の日は元気だったのになあ。 疲れが溜まりやすくなってきたのでしょうか;; まあ、こんな感じでだらだらとやっていきたいですね(何) 小説は更新が遅くて本当に申し訳ないです。 しかし、これからも頑張ります! それでは、また次回作でお会いしましょう、夢藤でした☆ |