「ねえ。神様とかって信じてる?」

  □■神様の神様■□

 唐突な君の言葉。
 いつのまにか歩みを止めて突っ立っていた君を振り返り、その視線の先を追ってみる。
 電柱に、どこかの宗教のポスターが控えめに貼ってあった。

「信じないよ。別にいてほしいとも思わないしね」

 歩き始めると、すぐに君の足音がついてくる。

「なんで」

 当たり前じゃない。
 都合の良い時にばっかり神様にすがって、自分は何もせずに助けを待つだけなんて、そんな弱い自分はいらない。
 私は足を止める。君が横に並んだ。

「・・・・・・そっちこそ、信じてるの?神様」
 逆に尋ね返してみた。
 見慣れた君の横顔の、唇だけが少し突き出る。
「んー・・・・・・信じるっていうか、神様はいなきゃ駄目なんだよ」
 呟くように何気なく、君が言った。
 当たり前、という顔をしている君に、私は首を傾げる。
「宗教?」
 君ってそんなの入ってたっけ。さっきのぼろぼろになったポスターを思い出した。
 君は唇をとんがらせて、
「そんなわけないじゃん」

 そう言った。

「一生の中でね、人は絶対神様に会うんだって」

 長い階段に差し掛かった。
 君は、私の一歩先を行く。

「会う?」

 例え信じていても、神様には会えないでしょ。


 ――――君の言う神様って、一体なに?

「恋人」
 君が言った。
 階段をのぼりながら喋るものだから、少し息があがっているのがわかった。
「かもしれないし、友達かもしれない。親とか、学校の先生とか。動物かもしれないし」
「・・・・・・」
「人それぞれの神様がいるし、それが一つだとも限らないんじゃないかって思うんだよ」

 一段一段、のぼるたびに言葉を句切りながら君は言い切って、眩しい眩しい太陽の光を背負って笑った。


「・・・・・・疲れた?」
 早足で階段をのぼり続け、しばらくしてから君の背中に尋ねてみる。
 少し早く上下する白いパーカの向こう、君の頭がこくんと小さく沈んで、また浮いた。
 私も疲れているのは変わらないけど、ずっと喋りながらこの目の眩むような長い階段をのぼり続けた君とは疲労度がまるで違うんだと思う。
 私はにやっと笑うと、君の左手を掴んで残りの段差を一気に駆け上がった。



 標の引かれた大きな大きな木の下で二人、息を弾ませて座り込む。
 Tシャツの裾を引っ張って煽ぐと、からっとした風が直にお腹を撫でて、気持ち良かった。

「あっつー・・・・・・一人じゃのぼり切れなかったよアレ、絶対」
 君が大きく息を吐き出して、額の汗を手で拭った。
 私は早まった呼吸を整えようと、胸の辺りを軽く叩きながら尋ねた。 「じゃ、なんで行こうなんて言ったの」

 君が、笑う。

「引っ張ってってくれる人いるし?」
「うわ、何それ腹黒?」
「ううん、そのまんま黒」
 しっとりと涼しい木陰の中で感じる木漏れ日が、とても優しかった。

 ――――私の神様って、何だろう。


【 完 】


  【あとがき】
 こんにちは、夢藤です。こんなところまで読んでくださり、ありがとうございますv
 さて、今回は神様のお話。ここで言う神様は、全知全能だとか、そういう凄い神様じゃないんです。誰かが強く信じている何か、とでも言えばいいのでしょうか。深く説明はしませんが。
 皆さんに神様はいますか?いるのに気付いていない人もいるかもしれないし、見付からずに必死に探している人もいるかもしれません。
 人には何か、信じられるものがなきゃ、山あり谷ありのこの人生、生き抜いていけないと思うのですよ。
 それにしても短編小説、大分量が増えてきましたね。とても嬉しいです♪
 もうシリーズものといった方が良いような気がしますが、ずっとこのまま、こういった調子で続けていきたいと思っております。
 それでは、次回作も読んでくれると嬉しいです!次はもっと夏らしい小説を書けたらいいな。。
 夢藤でしたv
2005/06/18