繰り返される青空が、揺れる水面に広がった。


 □■ キラキラ ■□


「なんかさー、水上歩行とかってしてみたくない?」
「・・・・・・なにさ、いきなり」
 突然変なことを言い出すのはいつものこと。
 慣れたつもりでも突拍子もないその質問に、やはり私はいつものように首を傾げてしまう。

 君は左手に持ったビニル傘をゆらゆら前後に振りながら歩を進める。
 その傘から滴る雨粒が地面に落ちて、広がる青空を揺らした。

「この前テレビでやってたの見なかった?
 水上歩行に挑戦!とか言って片栗粉使って水上歩行しようとしてたヤツ」
 楽しそうに笑いながら、君は私の視線を追って目を空に落とした。


 へぇ、片栗粉で水上歩行できるんだ。
「でも、どうせやるんだったらそんな小細工なしで歩きたいよね」
 呟きながら、私は君の見守る中、静かに雲を流すスカイブルーに足を踏み出した。

 片栗粉なんかじゃきっと、こんなに綺麗な空は見れないだろうから。


「まあ、そうだけど」
 君が小さな声で答えた。



 ゆっくりと。少し泥で汚れた白いスニーカーで空に、触れる。

 スニーカーを挿んでいるから直接触れたわけじゃない。でも、足の裏から足首の辺りまで、なんとなくひんやりしたような気がして、少しくすぐったくなった。


 あんなにそっと触れたのに、空は大きく揺らいでいる。
 私のスニーカーを中心に広がる波紋に押され、ゆらゆらと、歪む。


「あ゛ー」
 突然、君が変な声をあげて、小さな空に踏み込んできた。


 パシャリ、パシャリ。


 水滴が、君のスニーカーに跳ね散って、吸い込まれる。

「何してんの」
「や、急に入ってみたくなった」


 キラキラ。
 君の一歩に応じるように水が、空が、光る。


「うわっ、水入ってきた。気持ちわるっ!」
 空を渡りきった君は、落ちつかなげに両足を交互に振った。
 キラキラ。


 私は無言で足元を見る。
 君に荒らされて歪んだ空は、ゆっくりと波打ち、やがて私を残したまま、静寂を取り戻した。

 私はぴくりとも動かなかった。
 だから空もぴくりとも動かなかった。

「・・・・・・」
「・・・・・・」

 私が喋らないから、君も喋らなかった。
 私が足元を見ていたから、君も私の足元を見た。


 君が、笑ったような気がした。


 キラキラ。


「凄い。空の上に立ってるみたいに見えるよ」
 君の言葉に、私も口の端を引き上げた。
「マジで?私、神様みたいじゃん」


 風が、吹いた。
 空が、揺らぐ。

 光が――。


 キラキラ。


「帰ろっか」
 一歩、進むと私の靴底から雫が落ちた。
「うん」
 君も、濡れた傘を振って水滴を払い落とす。



 いつもと何も変わらない。
 そんな帰り道。空へと続く穴は、地面にぽっかり口を開けて、静かに青を描いていた。

【完】  

  あとがき
 こんにちは、夢藤です。
 台風が現在進行形で大暴れしてますね・・・皆様、お気をつけくださいね;;

 さてさて、今回の小説は、掲示板に書き込みくださった某方の一言、『キラキラ』にとても深い感動を感じて、最近見た『キラキラ』な出来事に当てはめて書いてみましたv
 書いていたとき、『空に目を落とす』っていう表現がとても不思議で、個人的にはけっこう気に入っちゃってます(笑)
 毎日『キラキラ』して生きていたいですよね。そしたら、私が小説を書きながら目指している、『人生でいっちばん大きな幸せ』に出会えるような気がします。
 それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました。
 台風には本当に気をつけてくださいね;


  2005/09/06