□■メロンソーダデイズ■□  


「キレイだから」

 君はグラスになみなみと注がれたメロンソーダをストローでかき回す。
 中で氷がぶつかり合って窮屈そうに回転した。

 私は首を傾げてオレンジジュースをストローですすった。
 オレンジジュースは口に優しい。


「キレイって、どこが」
「色が」
 君はぽつりと答えると、ストローをくわえた。
 爽やかな緑色は、音もなく高さを失っていく。私はそれをぼーっと眺めていた.


「まあ確かにキレイだけどさ。もうそれで四杯目だよ」
 ファミリーレストランにはありがちなドリンクバイキングサービス。たった百五十円程度でドリンクが飲み放題なんて、世の中も太っ腹になったものだ。
 ともかくも、そんなありがたいドリンクバイキングで四杯目のメロンソーダをすする君は、少なからず変わり者だと思う。

「こんなキレイな色がお腹ン中に入ってるなんて考えると、嬉しくてやめられな  くなるよ」
 君は噛まれてぺちゃんこになったストローの先をさらに噛みつぶしながらにやりと笑った。
 私は思わず溜息を吐く。さっきのは訂正。君は完全なる変わり者だ。


 私は氷だけになったグラスを片手に立ち上がった。

「そんなこと考えながらメロンソーダ飲んでる人って、いないと思うよ」
「あ、これにも注いで来て」
 私の空いている方の手に空のグラスを押し付けて、君は爽やかに笑った。

 あれ、この感じ、なんかに似てる。

「・・・・・・どれ持ってくればいい?」
 私は両手のグラスを揺らしながら尋ねた。カチン、カチンと音がする。
「んー」
 君は考えるように私のグラスを見つめ、次いで逆の手にあるグラスを見て、微笑んだ。

「メロンソーダで」
「・・・・・・はいはい」
 私は苦い笑いを浮かべてから歩き出した。


 程なくして私は君の待つテーブルへ戻った。君は頼みもしないくせに料理のメニューを眺めていたけど、私の両手にあるグラスに揺れる、泡立つ緑にまんまるな目を輝かせた。

「あれ、両方メロンソーダ」
「私だってメロンソーダくらい飲むよ」
 大して面白くもなさそうに答えると、君は「そうだね」と笑ってまた、メロンソーダに口を付けた。


 小さな泡の揺らぐ緑が、君の中に爽快に流れ込んでいくのがわかる。


 なんだか。
 もしかして。
 私も君と――


「おんなじ人種なのかもね」
「え?」
 小さく呟いた言葉。
 絶対に聞こえないだろうと思ってたけど、君には聞こえちゃったみたい。

「なんでもない」
「ふぅん?」
 君はまだ何か言いたそうだったけど、それきり口を閉ざしてメロンソーダをかき回した。
 それを見て、私も同じようにストローを使って浮かんだ氷を沈めると、そっとすすった。


 流れ込んでくる冷たいメロンソーダ。
 甘い炭酸が口の中で弾けた。

「美味しい」
「でしょ」
 君は自慢げに笑った。
 私はなぜだか、メロンソーダを吐き出したい衝動に駆られた。

「・・・・・・ヤな感じ」
 うん。君は似てるんだ。
 爽やかで甘くて、どこか刺激的。

「ヤな感じ」
「なにが」
 もう一度呟いた私に、君は小首を傾げた。
「帰ろ」
 私はそれには答えずに立ち上がる。テーブルの隅に置かれたいた伝票を君に突き渡した。
   『 ドリンクバイキング(2)/180(2)
                       計 360円 』


 私は小さく笑った。
「百八十円くらい、自分で払いなよぉ」
 君は不満そうに伝票を握りつつ、財布を取り出す。
 私はまた、微笑む。

 自分の財布から百円玉を四枚取り出すと、君の手に握らせた。
 君は少し驚いたような顔をして、でもすぐに微笑んだ。


 やっぱり似てる。
 うきうきとレジで会計を済ませる君を横目で見ながら、私は思った。


 だから私は明日もこの時間に、君に内容の同じ伝票を渡すんだろう。
 二つのグラスに映る、私と君の後姿。
 中に残った氷が、カランと音をたてて崩れた。

【完】


  【あとがき】  
 お久しぶりです、短編小説第三弾にございます。
 学年末テストの真っ只中と言うに、我慢しきれず書いてしまいました(さっき日記にテスト終わったら更新とか言ってたくせにィ!!)。やっぱり私は小説書きをやめれません・・・(ヘボいけど)
 今回の話はいかがでしたか?
「メロンソーダばっかあんなに飲めるわけないって!!」とか思ってしまった方、正解です(何)。
 でもね、実際私はメロンソーダ大好きなんですよ。ファミレス行けば、まずこれです。五杯も飲んだことはさすがにないんですが、四杯までならいきました・・・!!
 美味しいというかなんというか、あの爽やかな感じが大好きです。誰かメロンソーダ仲間はいませんかね〜?(笑)
 て、なんでこんなメロンソーダの話ばっかり・・・ごめんなさいごめんなさい。。
 本当はメロンソーダだけに、もうちょっとお洒落な文章にしようと思ったんです。。でも、私には無理でした(当たり前)
 まあ、私らしさは出せたと思います!!感想くれたら嬉しいです。
 こんなどうでも良しなあとがきまで読んでくださり、本当に本当にありがとうございます!!
 それではこの辺で。次回作もぜひ読んでやってください。夢藤でしたvv

                                                                 2005/2/20