□■夏木立の木漏れ日と■□
「あ、ニキビ」

 君が私の鼻先を指差してそう言った。

「あ・・・・・・ホントだ」

 鼻を押さえて確かめると、ピリリとした痛みが走った。
「いやだなあ、こんなところに。恥ずかしー・・・・・・」
 私はぶつぶつ呟くとニキビの先を軽くつつく。
 君が顔をしかめた。
「つついたら駄目だよ。痕残っちゃうよ」
「うーん・・・・・・」
 一度気が付いてしまうと、いくら気にすまいと心掛けても気になってしまう。
 私は落ち着かなく最後にピシャンと鼻先を叩いてから手を離した。

「いいじゃんべつに。ニキビは若者の証明だよ」
 励ますつもりなのかなんなのか、君はそう言って笑った。
 が、ニキビはない方が良いに決まってる。
「無理矢理だなあ」
 そう文句を言うと、君はさらに声をあげて笑った。


 足元で、タンポポが綿毛を付けて揺れている。

「んー・・・・・・風が気持ちいいね」

 少し強めの風に煽られて、君が呟く。
 私は首を縮めると、両腕で自分を抱きこむような仕草をした。
「えー、これだけ強いと寒いよ」
「何言ってるの、子供は風の子だよ」

 そう君は言い切った。
 私は溜息を吐く。
「さすがにもう子供じゃないでしょう」

 君は私の言葉に振り返ると、首を傾げてむすりと黙り込んだ。

 どうやら本気で考えてるみたい。


 初夏の木漏れ日と涼しい風が絶妙だ。
 自然っていうのはことごとく人間のツボを心得ていると思う。うん、ホントに。

 私がそんな感慨にふけっている間に、君が口を開いた。

「うーん・・・・・・そうかもしれない」

 かなり曖昧だ。

「でも、そうじゃないかも」

 もっと曖昧だ。

 私は吹き出した。

「なに、ソレ」
「あ、なんで笑うの」

 人がせっかく真面目に考えたのに、と言った君は耳だけ赤くして右手で自分の髪に触れた。

「みんなずっと子供だよ」

 君は唇を尖らせながら、綿毛の中にしゃがみ込んだ。

 私もそれにならうと、タンポポの綿毛を一本、摘み取って強く息を吹きかけた。

 真っ白な綿毛が、優しい陽光と涼しい風に包まれてふわふわと飛んでいった。

「わっ、付いた」

 君が声をあげて、前髪にくっついた綿毛を摘む。

 自然っていうのはことごとく人間のツボを心得ていると思う。

 初夏の程よい日差しが木漏れ日となって降り注ぐ。


みんなずっと子供でいたいよ

 強い風が君の声をさらった。

 私は強く煽られる髪を押さえつけて君を見る。

 君も私を見返した。大きめの瞳は、表現するならいつだってキラキラしてる。その瞳を細めて君は微笑んだ。

「行こーか」
 君は立ち上がって私を振り返る。私は頷くと同じように立ち上がった。


 青々と茂った木立の合間を通りながら、私は揺れる日差しを眺めて君の後ろを歩いた。

 こんな日が、ずっと続けばいいのに。
 叶わないと知っていながら、そんなことを考えるのが止められない自分に、思わず苦笑した。


『みんなずっと子供だよ』

 だからこそ、君がそう言い切ったのが少し、嬉しかった。




      
『みんなずっと、子供でいたいよ』




 一陣の風が、君と私の間を吹き抜けた――――。



【 完 】


  【あとがき】
こんにちは、夢藤かるはです。テストまで一週間をきった今日この頃、性懲りもなく小説を書いています。
新作は、MIDIとおそろいで書いた『夏木立の木漏れ日と』です。でも、MIDIとはけっこうイメージ変わってしまってるかも・・・しれません。(いえ私は考えたつもりなんですけどね)
私も現在鼻にニキビができて困ってます。気になって触っちゃうんですよね、アレ。どうしても。。
春が好きと言いつつ、夏は夏で大好きな夢藤。どどんと曖昧人間。
でもその前に梅雨がやってきますね。でも雨もけっこう好きなので・・・楽しみといえば楽しみです。(この先雨ネタ増殖注意報発令します!)

とにかく今はテスト勉強に専念せねば!サボりもいいところな夢藤。この辺りで失礼させていただきます。
こんなところまで読んでくださり、誠にありがとうございましたv