□■夏霞行路■□

「あつー・・・」
 気だるそうに君が呟いた。

 確か、今日の明け方、小雨が降っていたんだっけ。
 今はすっかり晴れていて、宙に残ったのは君を悩ませる湿気だけ。
「このジメジメした感じがたまんないね」
 君はそう言うと、手を団扇代わりに、ぱたぱたと顔を扇いだ。
 君の髪の毛がふわふわとわずかに揺れた。

 私はバッグの中からノートに挿んだままだった下敷きを引っ張り出すと、君に向けて風を送った。
「声に出すから暑くなるんだよ」
「あ、涼しい。いいねそれ」
 君は目を細めて笑った。

 蒸すような暑い夏の、痛いほど晴れ渡った空の下に、下敷きがペコペコとしなる音がしばらく響いた。

「あーあ。雪が降ればいいのに」
「確か去年の冬には夏の太陽が恋しいとか言ってたじゃない」
「そうだっけ?」

 君は呟くと、私から下敷きを取り上げて、気だるそうに、今度は私に向けて扇ぎ始めた。

 ペッコペッコ。

 下敷きが振れるのに合わせてやる気のない音と緩やかな風が生まれる。
 その風が、私の前髪をさらった。

「あつー・・・」
 再び君が呟いて、額から噴き出る汗を肩を使って無雑作に拭った。

「アイス買って来よーか」
「パピコがいいー」
「えー、ガリガリ君でしょ」
「やだよアレ。パッケージに可愛さが感じられない」

 君の口がとんがった。
 私は笑う。

「なんでそんなトコ気にするかなあ。美味しきゃいいじゃない」
「いーや、気にするね。
 売りたいのにあんな可愛げないパッケージにする業者の考えがわからない」
 君が眉を寄せてそう言った。
 普通、アイスのパッケージひとつでそこまで考えるかな。

「じゃあ、やっぱりパピコにしようかな」
 私は立ち上がると、バッグを拾い上げて近くのコンビニに向かって歩き始めた。

「やっぱりかき氷にしよう」
 君も立ち上がって、送る相手のいなくなった風を自分に向けた。

 君には気まぐれって言葉がぴったりだよ。


「あつー・・・」
 うだるような暑さの中で、気だるそうな声と、ペッコペッコとやる気のない音を聴く。

 なんだかそれが、涼しくて。

 思わず浮かべたくなる微笑をこらえて、私は揺らめく夏の空気の中をゆっくりと歩く。


「あつー・・・」
 呟きながら、君が小さく微笑んだ。


【 完 】


  【あとがき】
 皆様、こんにちは。夢藤ですv
 こんなところまで読んでくれてありがとうございます♪
 今回はアクセスカウンターが三桁突入ということで、気合も入れて暑い小説を・・・!!(いらん/ゼェゼェ)
 ちなみに、気合こそ入ってるもののこの小説はな〜んにも考えずに書いてます(いつもだよ)。
 考えたといえば、「いかにも日本の夏!っていうジメジメ感が出せたらいいや」。。

 ・・・・・・この小説を読んで汗をかいた、またはパピコかガリガリ君が食べたくなった方がいましたら、書いた甲斐があったと思います(何)
 ので、当てはまった方がもしいましたら、ぜひ御一報を!(笑)
 次も頑張ります☆夢藤でした〜v
2005/07/22