□■ 列車内発見記 ■□


 閉まりかけたドアに、とっさに持っていた傘を突っ込んだ。
 ドアに挟み込まれたビニル傘は、一瞬軋んで取り落としそうになったけれど、安全第一を心掛けるドアは、すぐに開いて私の傘を解放してくれた。

 閉まるはずだったドアが全開したその隙をついて、私は素早く中に入ると、優先席のそばにある一般シートに腰掛けて、荒い呼吸を繰り返す。

 すでにその隣に座っていた君は、そんな私を見てニヤニヤと笑った。
「ダサー」
「うるさいよ」

 隣でケラケラと笑う君を一睨みしてそう言ったけど、君はなお、笑いをやめようとはしない。


 ガタン、という音と同時に、君と私の体が揺れた。

「このネタで三ヶ月は笑ってやろう」
「冗談じゃないよ」
 ホント、冗談じゃない。あれでも一生懸命だったんだからね。
 自分でも恥ずかしいことを他人に指摘されると、腹が立つ。

「まあまあ。あんま気にしないほうがいいよ」
 そう言う君がそんなに笑ってると、気にしてしまうのですが。

「あーあ、びっくりした」
 最後にひとつ、大きく息を吐いてその話を締めくくった。


 私が立ち直ったのを知ると君は笑うことをやめ、背後を振り向いて窓の外を眺め始めた。
 私もそれにならって体をねじると、窓の外を眺めてみた。


 その様子を確認する間もなく、港町の情景が次々と姿を変えていくのに、まだ低い位置にある太陽の光と、それを反映して金色に輝く静かな水面だけが、絶えず遠くの方で揺れている。
 思わず、微笑んだ。


「あ、見てあそこ。ずっと工事してた店、オープンしてるよ、ほら」
 突然、君が楽しそうな声をあげて私の右腕をバシバシと叩いた。

 私は顔を顰めて君の視線の先を探る。
「痛いよ。どこ?」
「・・・・・・もう通り過ぎちゃったよ。もー、ちゃんと見てないから」
 君は苦い顔でそう言うと、窓から目を離して座りなおす。
 私はごめんごめん、と苦笑しながら、それでも窓の外を眺め続けた。


 しばらく私たちは無言で揺られ続けた。
 何駅か途中で停車したけど、都会の喧騒とは逆方向に進んでいくこの列車は、速すぎる時間帯というだけのこともあり、車内の人の移動は少ない。


 向かい側では、手すりの傍に座っていたおばさんが、背後の窓に頭を預けて目を閉じている。

「あ、もうすぐ着くよ」
 君がそう言って足元に置いていたバッグを掴む。
 がたっ、と音がして、一瞬列車は大きくその身を揺らし、速度を落とした。

 ふと見れば、おばさんの背後の窓から見える、ゆっくりと進む景色からは、いつのまにか金色の水面が消えていて、少し込み入った街並みになっている。
 やがてそれは少し寂れた駅のホームへと変わり、そのまま動かなくなった。

 その時、かたん、という音と共に、向かいのおばさんの手から、少し派手な小花柄の傘が滑り落ちた。


「あ、落とした」

 すでにドアの前に立っていた君が、その音に振り返って呟く。
 私は微笑を浮かべながら頷くと、その傘を拾い上げておばさんの腕が預けられた手すりに持ち手を引っ掛けた。



「あー、今日も頑張りますかぁ」
 やけにのんびりとした声をあげて、目の前で開いたドアから、君が外へと足を踏み出す。
 私もホームに足をつけた。


 今日も、ねぇ。


 小さく、笑う。


 背後でドアが、音をたてて閉まった。

【完】  

  。。あとがき 。。
 こんにちは、夢藤です。
 二日連続小説更新。まるで怒涛のごとく。
 とにかく小説が書きたい毎日。でもまたすぐにテストが始まるのでそんなわけにもいかなくなりそうです;;

 さて、今回の小説は、列車の中のワンシーン。
 飛び乗り乗車って、乗ったはいいけどその後が恥ずかしいですよね;
 走ったせいで一人でゼイゼイしながら座ってる時とか、ホント消えてなくなりたいです。穴があったらそれがどんなに小さな穴でも入ってみせます(笑)

 小説本当に増えたなー・・・感想とかももらえるようになって、本当に嬉しいですv
 これからも頑張っていきたいなぁ。。

 本当に毎度毎度あとがきどうでもよくてすみません。
 こんなところまで読んでくださっている貴方、大好きです(笑)

 それでは、また次回更新の時に。。夢藤でした〜☆

2005/08/31