○● さくらぼけサイクリング ●○


 穏やかな午後の日に照らされた真新しい赤い自転車。
 鍵を外してまたがると、日差しをたくさん吸い込んだサドルが暖かくて思わず顔がほころぶ。

 同じく温もったハンドルを両手でしっかりと握り、爽やかに雲を流す大空の下、私は地を蹴り漕ぎ出した。


 キラキラ輝く川の上、見慣れたはずの橋をのんびりと渡りながら、その先に見える満開の桜色がとてもやさしく見えるものだから、やっぱり私の顔は緩みっぱなし。

 普段は気にする人の目もない。
 風が前髪を攫いながら耳元を掠めて通り過ぎる。
 ブーツカットのジーパンの裾も風に煽られて足に纏わりつくけれど、そんなに気にならない。


 橋を渡りきった辺りから、今度は人々の笑い声が聞こえ始める。
 満開の淡い桜色が頭上で揺らめいていて、それを見上げて私は思わず溜息を吐く。
 いつものとはちょっと違う、感嘆の溜息。
 こんな溜息が自分にも吐けるのかと、ちょっと嬉しくなってしまう。

 ああ、なんだかとても気分が良い。

 こんな気持ちになれたのも久々で。
 久々に感じた春らしい陽気。

 あったかい。
 柔らかい。
 そして、やさしい。

 香ってくるのは美味しそうなバーベキューの匂い、春の香り。

 桜の木々の木漏れ日の中を、軽やかに赤い自転車が滑る。
 緩やかな風に押されて、舞い落ちる花びら。
 落ちた花びらの絨毯が、湖面のようにサァーッと流れていく。


 全てが。
 全てが紛れもない春だ。

 遠くで笑う君の姿が、大きくなるにつれて。
 私は足の力を徐々に抜いて、そしてハンドルを押してゆっくりと歩み寄る。


 私もこの景色の中に、ちゃんと紛れているんだろうか。
 そうだったらいいな、と。

 爽やかに笑う君に向かって、私も微笑みかけた。



【完】  

  あとがき
 こんにちは、夢藤です。
 久々の小説更新ですが、やはりリハビリ中・・・少し気に入りませんが、頑張った!という意味でアップです。
 お目汚し申し訳ありません;;

 休みとは言えない春休みの中で、唯一私が休めた一日の景色です。
 一度も会話なし(あちゃー)・・・なんだかいろいろすみません。
 感じを思い出すまでにもう少し時間が必要ですね(汗)

 それにしても、春せっかく気持ちよかったのに、もう桜は散ってしまいますねー;
 残念です・・・今のうちにしっかり見納めてこよう(笑)

 そして、キリ番MIDIのリクエストが桜を含んでいますが、咲いているうちに間に合うかどうか微妙なところです;
 が、頑張りますね!
 久々の更新、更新する方としては楽しかったです。
 次は、もっと気合の入った文章が発表できるように私も気合入れますね!!(フンッ/鼻息)
 それでは、次回作もどうぞよろしくお願いしますね。


  2006/04/03