○● スネークロード ●○ 「あーあ、もうダメ」 私は思わず呟いた。 もうダメ。全然ダメ。 なんだか寒い。 そう思ったら、後ろのドアが少し開いていた。 でも、どこか気だるくて動く気にもなれず、放っておいた。 私は溜息を吐くと、『す』という文字の途中でシャーペンから手の力を抜く。 『す』の最後の払いは大きくへんてこな方向に跳ねて、なんだかかっこよくなった。 私の手から滑り落ちたピンクのシャーペンはカランと乾いた小さな音をさせて紙面に横たわると、私の文章の上をゴロンゴロンと転がって。 程なくして動かなくなった。 「何がダメ?」 隣に座って英語の課題をやっていた君が身を乗り出して私の紙を覗き込む。 真っ白な紙の上に綴られた、意味のない五十音。 もっとも、『す』までしかないので十三音だ。 「何書いてんの。そりゃ、ダメでしょ」 君は馬鹿にするように鼻で笑ってそう言った。 違うよ。 私が言ってるのは、内容じゃなくて形状のほう。 君は笑いながら私のシャーペンを手に取ると、私の紙の片隅に簡易化した担任の似顔絵を描き始めた。 うん、これが結構似てるんだ。 でも今は、そうじゃなくて。 「書けないんだよね」 ぽつりと呟くと、君は自分の描いた担任の似顔絵を眺めてまさしく自画自賛しながら、それでも顔を上げてくれた。 「なにが」 「ねえ。そこに五十音書いてみてよ」 「えーメンドクサイ」 ぶうぶうと文句を言いながら君はピンクのシャーペンをくるりと回し、サラサラと紙面で踊らせ始めた。 感じの良いひらがなが担任の顔の横に並んでいく。 その文字の並びはやっぱり綺麗に真っ直ぐで。 「あーあ、やっぱり真っ直ぐかぁ」 溜息混じりに呟いた時、『め』を払ったところで君がその手を止めて私を見た。 目が合うと私は少し目を細めて、示すように私の文字にその視線を落とした。 「・・・・・・ああ、文字のこと」 しばらくして、君が小さな声でそう言った。 「私、線のあるノートじゃないと真っ直ぐに文字書けないんだよね」 少々大袈裟な溜息を吐くと、君がにやりと笑う。 「ふむ、まるで君のその捻じ曲がった心が表れているようですな」 「何ソレ。人聞きの悪い」 私は眉間に皺を寄せたけど、口は笑っちゃったと思う。 「いや、それが君らしくて良いところさ」 相変わらず変な口調で偉そうにそう言う、君。 「偉そうに」 笑いながらそのまま口に出したら、君は「だって偉いんだから仕方ないじゃん」とか言っていた。 「それでは、そんな偉いお人から、心の捻じ曲がった君へプレゼントだよ」 楽しそうにそう言って、君は私のペンケースを勝手に漁ると、中から太目の赤ペンを取り出して、まだ何も書かれていない紙面中央辺りにフリーハンドにしては上手い直線を何本か引いた。 「これで書けるじゃん」 「おお、ナイス」 わざとらしく驚くと、君も嬉しそうに笑った。 ほんと、君は偉いよ。 この際、上から二列目の線がけっこうぐにゃぐにゃであることは、気にしない。 「それでは、遠慮なく書かせていただきます」 「どうぞどうぞ」 笑いながら、私は真っ直ぐな五十音を完成させんと、君の赤い線の上にシャーペンの芯を置いた。 【完】 。。あとがき 。。こんにちは、夢藤です。 新年初☆そして久々の小説更新です!(涙) 前回の『白雪往きて』も久々だったのに、更に久々でもう久々すぎて何も筆が進みませんでした(笑) さて、小説のお話ですが、私は真っ白な紙だと、縦書きでも横書きでもぐにゃぐにゃのうにょうにょになってしまいます; 皆さんはどうですか?お仲間いますか?? 私の友達には、少なくとも私ほどぐにゃぐにゃになる人はいません・・・; 更に、真っ白な紙を見るとつい五十音か『へのへのもへじ』を書きたくなるのは私だけ・・・?? いや〜『へのへのもへじ』はいいですね。更に『へのへのくつし』も書くの好きです。一度、『へのへのもへじ』と『へのへのくつし』の恋愛漫画でも書いてみようかしら(笑) それでは、どうでもいい『もへじ』話になってしまいましたが、また次回作で会いましょう。。夢藤でした〜☆ 2006/01/06 |