□■ たとえばそんな小さな飴玉でも ■□ 「飴、あげる」 そう言って、右頬を異様にふくらませた君の、差し出された掌には、ちょこんと一つの飴玉が乗っかっていた。 あ、あのザラザラしてる大玉だ。 綺麗な水色をした、大玉。 「いいよね、大玉」 私が笑いながらそれを受け取ると、君がコクンと頷いた。 大きいと言っても大したものではないが、口の中に入れた途端にヤツは大暴れをはじめるんだ。 普通ではおさまりきらない飴玉のせいで、君の口がわずかにすぼめられている。 大きく口を開けて、私もその綺麗な飴玉を口の中に放り込んだ。 ――甘い。 何とも甘い砂糖の味。 それが口いっぱいに広がって、表面のザラザラが上あごを擦る。痛い。 普通の飴でするように、口の中を転がしてみた。 顎が外れそうだ。 「ははっ、変な顔になってるよ」 君が大玉を口に含んだまま、私の頬を指で突付いた。 ちょうど飴玉を含んでいたそこは、周りから見たらきっとぽっこりふくれてるんだろうな。 「痛いよ」 そう言って反対側の頬へ、飴玉を転がす。 わずかに小さくなっていた飴玉は、甘い味を伴って舌の上を転がり反対側へ。 「・・・・・・甘い」 そう呟くと、君は嬉しそうに微笑んだ。右頬をぽっこりふくらませて。 「いいよね、昔ながらの味って感じで」 「うん」 昔ながらの味。 砂糖の、甘い甘い味。 まるで、ふくれた頬ごと落っことしてしまいそうな、あったかい味。 「昔ながらかぁー・・・普通の大人が言うような昔なんか知らないのにね」 そう言って苦笑すると、君も少々考えて笑った。 「じゃあ、今からしたら昔っていつになるのかね」 「さあ・・・・・・」 今から昔。 昔ながらの味っていったいなんだというのだろう。 「飴ってさ、つい噛み砕いちゃうんだよねー・・・・・・」 ガリガリと音をたてて君が、口の中の飴を噛み砕く。 なんだかそれが、とてもうらやましかった。 だから私は、口の中を転がる三分の二ほどの大きさになった飴玉を、奥歯でガリッと噛んだ。 わりとあっさり砕けたそれは、きっとキレイな破片になってるんだろうな。 それが見てみたくて、私はガラスの破片が散らばる舌を、君に見せるように突き出した。 君がそれを見て、笑う。 「うわ、バキバキ。――まぁ、人のことは言えないけど・・・・・・」 そう言って突き出された舌の上には、綺麗な桃色のガラス細工。 私は少しの間それを見つめたけど、ふっと息を吐き出すと肩をすくめてみせた。 「早く食べちゃわないと、舌切れちゃうよ」 とってもとっても綺麗なガラスは、きっと切れたら痛いから。 だから、そんなに綺麗なものは、ずっとずっとしまっておいて。 わずかに口内に残る甘さが、とても鬱陶しかった。 私はくるりと君に背を向けると、歩き出す。 「どうしたの」 背後に君の声。 ガリ、ガリッというくぐもった音が、だんだん掠れて消えていく。 「ん、ウーロン茶でも飲もうかと思って」 残る甘さは嫌いだから。 「じゃ、メロンソーダもよろしく」 そう言って渡された百二十円。 「はいはい、行ってきますー」 呆れたような声で言ったけど、君には私の顔は見えないでしょう。 ふっと、口の端を持ち上げた。 例えば、そんなに小さな飴玉でも、こんなに爽やかな気持ちになれるなら、ザラついた表面がそのうち大好きになれるかもしれない。 【完】 〜あとがき〜 こんばんは、夢藤です。テストの合間にこんなものを書いちゃって。もう。 いつもと感じがちょっと違う・・・かも?ごめんなさい、もっと鍛えてきます。やっぱり駄目ですね、ちょっと書かなくなると。。 前の感じが好きだったので、損なっちゃったのは哀しいなぁ。 でも、気のおもむくままに綴った小説、気分とか時と場合とか、私がこの小説を書いているその周りを取巻くいろいろなモノに左右されて出来上がるので、自分でこんな感じにしよう、とか考えては書けません・・・; スランプとかあるかもしれませんが、気にしないでやってください。そのうち復活すると思うので; 大玉が大好きです。あのザラザラさえなければ。だから、ザラザラがあるのは大好きじゃなくて好き80パーセント。。(えぇ?) 味はまんま砂糖で美味しいんだけど、上顎をザラザラが擦るのが痛いです・・・(涙) そんな、どうでもいい話で締めくくり。すみません(謝) 夢藤でした〜♪ 2005/09/22 |