星への願いは、夜へと消えた。






□■たったひとつの 空のした■□


 いつも通りの帰り道。
 立ち並ぶビル、横を通る車たち。
 生まれ出た光が、夜を掻き消している。


 こんな喧騒の中を歩いていると、ひとりでいるのがとても虚しく感じられた。
 人工の植木の枝に、笹がくくり付けられていて、そこにいくつかの短冊がまばらに吊るされているのが見える。

『野球選手になりたい』

 黒の油性マジックででかでかと書かれた幼稚な文字は、大きな願い。
 笹の葉と共に風に乗るそれをしばらく見つめ、私はまた歩き出す。

 空を見上げれば小さな小さな星が、闇に飲み込まれそうになっている。


 今日は、星を祭る日なんじゃなかったっけ。


 私は歩きながら、溺れる星を眺め続けた。
 視界の隅に映るビルの放つ光が鬱陶しい。

 この空を見上げながら、薄く光る星々たちへ向けて必死に願う野球少年を想像して、私はくすりと笑った。
 歩行者の少ない道で良かった。
 他人がもし、今の私を見たなら、きっと怪しむだろうから。

 もう一度小さく笑いをこぼして空から視線を戻すと、私は足早に家路を辿った。


                                        【完】


  * あとがき *
 こんにちは、夢藤です。本日二作目(イエイ/お黙り)
 遅い七夕ですみません・・・;ちゃんと七夕の日に書いた小説だったのですが、いろいろと忙しくて更新できずにいました(謝)
 今回は珍しく『君』がでてきません。たまにはこんなのもいいかなー・・・と。。
 しかも今までになく短いです。いつもは下書きに使う紙に二、三枚は書くのですが、今回は一枚・・・もはや小説と呼べるのかどうか・・・(汗)
 でも一応『君と私』の世界の話なんで、小説としてこちらに置かせていただきます。。
 ちなみに友達の住む地域では今日から三日間(だったっけ?)七夕のお祭りがあるらしいですよ・・・(言い訳)
 む、夢藤でした〜!!(逃)
                                    2005/07/22