□■潮先は海風と共に■□


「げー、なんかベタつくんですけど」
 君が頬を擦りながら言った。
「まぁ・・・・・・潮風だからね」
 私は気のないような口調で返すと、眼前に広がる海原に目を細める。
 君はそんな私を気にも留めず、打ち上げられて砂まみれになった海草の上に鞄を置くと、その上にどっかりと座り込んだ。
「磯くさー・・・・・・」
 君はそう呟くと、脚を投げ出して両手を背後につき、そこに体重をかけて空を見上げる。
「仕方ないよ、海だもん」
 私は君の呟きに呟きで答え、なかなかこちらまで届かない穏やかな波を見つめた。

 砂の上を這うようにしてしみ広がる海水は、私の足先に届くか届かないか、というところで沖に吸い寄せられるかのように帰っていく。

「海なんてさ」
 下の方から声が聞こえた。
 君が空を見上げている。
「実際は思ってるほど爽やかでもないんだよね」

 ザァー・・・・・・という音と共に波が再び寄ってきて、君は慌てて立ち上がる。
「んー・・・・・・そうかもしんないね」
 じんわりと足にしみ入る水の感触に、足元をぼんやり眺めながら私は言った。
「あーぁ、靴濡れちゃった。買ったばっかなのに」
 君はなんとか水に触れる前に鞄を救出して、そこに付着した砂を叩き落としながらぼやいた。

 ふと見れば、穏やかに揺れる水面の上で、燃え残った花火のカスが、ゆらゆらと流れに身をまかせている。
 こんなもんかな、現実って。

 ゴウッと、海風が音をたてて前方から吹き付けてきた。
 その風に押されるようにして、君はごく自然にまた、雲のあまりない空を見上げる。
「あーぁ、磯くさい」
 そう呟いた君の声は、広がる空に吸い込まれていくような気がした。


 海が、大好きなんだ。

「そろそろ帰ろーよ。ずっとこんなとこにいたら、磯くさくなるよ」

 君の声は、空が飲み込んでしまうから。
 いつだってそこにいて、手で触れて、足にしみる、大きな海が大好きなんだ。

「うん、そーだね」

 少し微笑んで、湿った靴で歩き出す。

 だから私は当たり前に、空を見上げて歩いていきたい。

「あー・・・・・・あれ、雨雲じゃん」
 そう私が呟けば、
「ヤバッ。ダッシュ、ダッシュ!!」
 君の声が、追い風に乗って私に届く。

【完】  



  〜あとがき〜
 こんにちは、お久しぶりです夢藤ですv
 昨日おばあちゃんのおうちから無事に帰って参りました〜。。
 そして昨日中にアップする予定だったこの小説は腹痛のために今日に持ち越し。もしのもしですが、楽しみにしていた方がいらっしゃいましたら、すみませんでした(謝)

 夏が終わってしまいますね・・・寂しいです。本当はそんな話を書くつもりだったのですが、よくわからんことに。。
 これだから行き当たりばったりで書くのはいけませんね(苦笑)
 夏の終わりは寂しいですが、海がなくなるわけでもないし。夏が来なくなるわけじゃない。
 せめてそんな想いを込めようと思って書いていました。でも、、今回はほんと駄目かも;
 次も頑張るつもりですが・・・飽きずに見てやってくれると嬉しいです。。
 それでは、夢藤でした。。

2005/08/22