「見て、桜。キレイ」

 ゆらゆら、ゆらゆら。



□■ゆらゆら さくら■□



 君の掌の上、ピンク色の桜の花びらが一枚、風に吹かれて揺れている。

「ほんとだー・・・」
 私はそれをそっとつまむと、天に掲げる。

 真っ青な空と眩しい太陽を背景に爽やかに揺られた。


「もっと拾おうよ」
 君は春風に乗る髪の毛を押さえつけ、辺りを舞うピンクの桜の中でもう片方の手を揺らめかせた。

 花びらが、君の手の動きにゆっくりと従う。
 私は微笑むと、つまんだ花びらを左手でそっと包み込んだ。



 ゆらゆら、ゆらゆら。




「なんか春って感じだね」

 君が呟いた。
 ブランコに座り込んだ君は、足元に散りばめられた桜の花びらを物色している。


「春だよ」

 私も隣のブランコに腰掛けた。錆びかけた鎖がぎぃっと音をたてた。

「うん」
 君は顔を上げずに土の上のピンクの間を人差し指で辿っている。下を向いたままだったから、その声が少しくぐもって聞こえた。




 ゆらゆら、ゆらゆら。




 それからすっかり黙り込んだ君を尻目に、私は黙々と花びらを集めていた。


 一枚、二枚。
 自分の手の中に溢れかえっている花びらたち。
 指の隙間から零れていくのを、つい目で追った。


「うわ、桜いっぱい。んー、なんていうのかな。桜色満開って感じ?」

 気がつけば、ブランコから降りた君が私の左手を覗き込んでいる。

 桜色満開だって。
 君のちょっとした一言が面白い。


 私はくすりと笑うと君の手に溢れそうな桜色を移した。君は嬉しそうにそれを両の掌で抱え込むと、きょろきょろと地面に視線を泳がせる。

「あれも拾って」

「うわ、ワガママ」

 私は笑う。笑いながら君が視線で示した先の花びらを拾い上げた。落ちたばかりのまだ綺麗な花びらだ。
 だって、手がいっぱいで拾えないし――という君の言葉を背後に私はその花びらをしばらく見つめていた。




 ゆらゆら、ゆらゆら。




「この桜と、この風と、この日差しと、この公園は」


 君が片手に花びらを包み込んだまま、ブランコの上に立ち上がった。
 音をたててブランコが揺れる。


「ちょっと春を感じるかもしれない」

 生真面目な顔つきで君はブランコをこぐ。

「春だよ」

 私もブランコの上に立ち上がると君よりも大きくブランコをこいだ。




 ゆらゆら、ゆらゆら。




 髪が、揺れる。

 桜が、揺れる。



 揺れる、みんな揺れる。

 この桜と、この風と、この日差しと、この公園と。

 君と、私と、輝かしい明日と。




 ちょっと、春を感じるかもしれない。




「春だなぁ」

 その声に振り向けば、君は空を見上げて目を細めてた。

 桜色が君の手から零れ落ちた。

 風に乗って、飛んでいく。



 桜色が満開だ、そう思ったある春の日。




【完】  




  〜あとがき〜
 あらかじめ注意。
 この小説は、PCのファイル整理をしていた際に発掘された、更新を忘れていた小説です。
 なので、実際にこの小説を書いたのは二〇〇五年四月のことです。
 季節外れですみませんでした;そして、以下がこの小説を書いたときに一緒に書いていた本当のあとがきです。お暇な方は読んでやってください;;
 では、どうぞ。。

 こんにちは、田舎学校で春を満喫した夢藤です。
 田舎学校最悪・・・とか思っていた私だったけど、初めてこの学校に来てよかったと思いました。

 桜満開です。この小説(?)を書くきっかけになったのは『桜色』という言葉なのですが。日本語ってキレイですよね。ピンク色ってひとくくりにしてしまえばそれまでだけれど、日本の言葉には桜色のほかにも桃色、珊瑚色、様々なピンクがあります。それぞれが与える印象も違って、それぞれが美しいです。
 なんて、語ってみたり(笑)
 今日はうちの学校入学式だったんです。新一年生の皆さんも、春風と共に気分すっきり、高校生活を満喫してほしいと思いますv